あらゆるものが、インターネットに繋がるIoT(Internet of Things)は、ビジネスモデルに大きな変革をもたらそうとしています。
次世代型のビジネスモデルの構築のポイントとなるのが、製品・サービス提供後の顧客との継続的な関係です。

IoT時代の商機はモノ・サービスの提供後にあり

今後のビジネスモデルに、IoTがもたらすインパクトは大きいです。昨今、多くのメディアで取り上げられているIoTは、ヒトを介さず、センサーを搭載したモノが収集したさまざまな情報にアクセスできる仕組みといえます。

IoTが普及すると、遠隔のモノの状況をリアルタイムに把握でき、そのモノを遠隔から制御できるという、二つの大きな変化が起こると言われています。その変化によって、今後、IoTを活用したさまざまなビジネスモデルが生まれると予想されています。

IoTがもたらすもっとも大きなインパクトは、モノ・サービスを提供したあとの顧客とも、継続的な関係性をもつこと持つ事を念頭にビジネスモデルを構築できる点です。これまで、企業と顧客の関係は、「モノやサービスを提供する企業がベストと考えた価値を、顧客が受け入れる」というものでが当たり前でした。これは、「企業は販売(提供)時点の価値を最大化すれば、モノやサービスは売れる」という考え方です。そのため、従来のビジネスでは、モノ・サービスを提供する時点までが重視され、アフターサービスは、副次的なビジネスとしてとらえられてきました。

顧客が製品やサービスを利用している時点での評価や利用状況に関する情報入手が困難だった時代では当然といえば当然の考えですが、IoTはその顧客と企業の関係性を一変させるでしょう。IoTによって製品を「いつ」「どこで」「どういう顧客が」「どのように」使っているのか、「製品の消耗度はどの程度か」「いつ使われなくなったか」など、モノ・サービスの提供後の情報把握が容易になることで、新たなビジネスモデルが生まれると考えられます。

ロールスロイスの稼働課金ビジネス
ロールス・ロイスは、航空機のエンジンの稼働時間に応じた課金ビジネスを展開している

一つ目は、モノの売り切りモデルから、モノの使用に応じて課金をするモデルへの変化です。たとえば、航空エンジンを製造しているロールス・ロイスは、同社のエンジンの稼働時間に応じた課金ビジネスを展開しています。

二つ目は、モノ・サービスを提供した後も、継続的にその価値を向上させていくモデルです。販売した車をソフトウェアのアップグレードで進化させて性能を高めていく、米国の電気自動車メーカー、テスラ社のケースが当てはまるでしょう。

三つ目は、顧客の成功のための自動コンシェルジュサービスの提供です。。遠隔からモノの状態を把握し、ネットワークを通じてそのデータが蓄積されると、モノの状態の診断が可能になります。IoT時代には、ヒトを介さずとも、そのデータ診断をもとに使用者に適切なアドバイスをしたり、遠隔からモノを制御したりといった、適切なフィードバックができるようなでしょう。これは、モノを販売後、そのモノがあたかも顧客に専任のコンシェルジュとなって、生産性向上や意思決定支援といったサービスを提供してくれるモデルです。いずれも、モノ・サービスの提供後、顧客と継続的な関係を構築していく活動が重要になってきます。

売り切りから、継続へ
製品・サービスを売った後も顧客と継続的な関係を結ぶことが容易になる

売り切りモデルから「利用課金モデル」へ

従来の売り切りモデルとは、モノの所有権を、企業から顧客に移動させ、対価を得るモデルだ(図2)。
顧客は本来、モノを利用する際の価値(利用価値)を得たいために、そのモノを購入(所有)します。たとえば、はさみを買う(所有する)のは、何かを切る(利用価値を得る)ためといった具合です。

これに対し、利用課金モデルでは、その「利用価値」を提供するために、最初にモノを販売し、顧客に所有させるのではなく、提供後のモノの利用に対して課金します。 有名な事例に、15年の『モノづくり白書』にも紹介されたケーザーコンプレッサーによる「コンプレッサー(空気圧縮機)の販売(売り切りモデル)から圧縮空気の販売(利用課金モデル)へのビジネスモデルの転換」があります。
それまで、製造現場で使われるコンプレッサーの販売がメインビジネスだった同社は、IoTを活用し、センサーから得られる稼働状況のデータなどから、コンプレッサーが供給した圧縮空気の容量を算出、使用量に応じた課金型サービスを展開しています。顧客にとって初期投資である装置の購入コストを抑えられるため、これまでになかった比較的規模の小さな顧客の開拓にも成功しているといいます。

その他にも、オランダのLED照明メーカー、フィリップス社は、毎月の利用量に合わせて課金するモデルを開始。フランスのタイヤメーカー、ミシュラン社は、業務用で利用されるタイヤを販売するのではなく、走行距離に応じて課金するビジネスを始めています。いずれも、IoTによって、モノの所有販売ではなく、モノの稼働・利用によって生まれる価値に対して課金しているのです。

利用課金モデルに似たビジネスモデルとして、定期的に交換が必要となる消耗品を継続的に購入してもらう代わりに、装置自体は安価あるいは無料で貸し出すサービスがあります。導入の際の心理的障壁を取り払い、導入後も継続的に収益を上げるモデルです。その場合、消耗品の価格が高く設定されている場合が多いため、「結局、損するのではないか?」という顧客心理が働き、受け入れられないケースも少なくない。しかし、モノの使用状況を遠隔から把握できるIoTを活用すれば、消耗品を販売することなく、提供後も継続的に課金し、収益を安定化させるビジネスモデルの構築が可能になります。

利用課金モデルは、顧客にとっては、これまでモノを購入し、所有しないと得られなかったさまざまな価値を、所有することなく享受できるようになると言えます。
所有によるメンテナンス・故障修理などの突発的な追加費用負担が発生するリスクが大幅に減る為、非常にメリットの高いモデルでしょう。
一方、提供企業にとっても、顧客との継続的な関係を築くことで、顧客を囲い込み、安定した収益やビジネスチャンスの拡大、コモディティ化で特徴が出しにくい製品機能でなくサービスでの差別化、長期的なビジネス契約の獲得などのメリットが出てきます。
さらに、製品を開発するうえで、顧客の声を取り入れやすくなり、必要な機能に絞って提供することで、効率的な製品・サービス開発ができるようになるでしょう。

一方で、売り切りモデルのビジネスをしていた企業が、この利用課金モデルを新たに始める際は、多くの痛みをともないます。何しろ、利用されないと収益を得られないため、モノを売るだけではなく、モノを使い続けてもらうようなサービスビジネス、いわば売った(提供した)後が本当の勝負となってくるからです。これまで、最初にモノを提供した時点で得られていたはずの収益がゼロになる可能性もありますが、それでも、顧客は、このビジネスモデルを求め始めています。企業にとっても、これまで初期投資がネックで購入しなかった層が、新たな顧客となるようなビジネスチャンスを秘めています。

販売後も顧客とともに製品・サービス価値を高める共創モデル

電気自動車メーカーのテスラ社は、インターネットに接続された「IoT自動車」の機能を、ソフトウェアアップデートによって販売後も継続して高めていく取り組みをしています。テスラ社は通信会社とパートナーシップを組み、すべてのモデルで無料インターネット通信を可能にしています。その通信を活用し、車を止めている間にアップデートされたソフトが自動車にダウンロードされ、最新機能に更新されるといいます。

これまで自動車は、購入時の機能が最新で、その後に更新させることはできませんでした。それに対し、テスラ社は購入後の自動車にもソフトウェアアップデートを適用することで、顧客に常に最新の自動車を提供するという価値を提供しています。

また、運転手が原因で発生した事故があった場合でも、同じような原因の事故が二度と起こらないような対策を自動車側でとれるような機能強化を、ソフトウェアのアップデートでしている。提供後も、利用者の行動や声、使用方法をもとに、自動車の機能を改善していく。自動車の販売後も、利用者とともに、継続的に自動車を共創しているといえるでしょう。

今後は、企業にとって顧客は、価値を提供する対象というだけではなく、サービス提供後も一緒に価値を高めていく大切なパートナーという位置付けになるでしょう。販売後も継続的に更新・改善を繰り返し、モノ・サービスの価値を向上させていく次世代型ビジネスモデルが台頭していくと、完成品を納品するというビジネスモデルは少なくなるかもしれません。

顧客のビジネスを成功させる自動コンシェルジュ提供モデル

海外のある喫茶店のオーナーは、ネット接続機能・各種センサーを搭載するIoTコーヒーマシンを開発し、コーヒーショップ向けに販売しています。彼らは単にコーヒーマシンを販売しているわけではないのです。コーヒーマシンから「コーヒーを何杯いれたか」「豆残量はどれくらいか」「マシンの稼働状況はどうか」「メンテナンスは必要か」といった、喫茶店を運営するうえで必要な情報を収集しています。

コーヒーマシンを購入したショップオーナーがウェブ上でそうした情報を閲覧できるようにすることで、ショップの収益率アップという価値を提供している。つまり、IoTコーヒーマシンが、ショップの収益向上のためのコンシェルジュ型サービスを提供しているのだ。性能のいいコーヒーマシンの販売ではなく、顧客のビジネスを成功させることを主眼にしたビジネスモデルで、やはりモノの提供後のサービスを訴求することが重要になってきます。すべてのモノ・コトが接続され、企業と顧客の関係性が近づくIoT時代に、ビジネスモデル検討する際は、「顧客との継続的な関係性」について考えることが必須となっていくでしょう。