外部CTOでは、日々様々な事業開発のご相談を頂いております。得意分野が、モノづくり・ハードウェアの開発なので、大小問わず、モノづくり企業・中小製造業・部品メーカー・電子材料メーカーさんからのご相談が多いのが特徴です。

ご相談者さまは、自社がこれまで蓄積してきた技術シーズ・自社の既存製品を活かし、成功確率を上げるためには、どのような事業企画をたて、どのように事業開発(新商品・新製品開発)を進めていけばよいか?という問いをお持ちです。

一般的には、シーズ志向ではなく、ユーザーのニーズを探し当てて・・・といったニーズ志向で企画を立てましょう!というお話になるかと思いますが、私どもは、シーズ起点であろうが・ニーズ起点であろうが、どちらでも構わないと思っております。特に製造業・技術力を持った企業や、社内の既存リソース(ヒト・モノ・技術・取引先)を活かす事が前提であることが殆どなので、ニーズ志向で企画立てましょうと理想論をお話ししても、具体的な次のステップにはいかないと思ってもいます。

いずれにせよ、企画段階では、その事業が成功するかどうかは、全て仮説にすぎません。外部CTOでは、どの起点からのアイデア・企画だとしても、結局は、対象とした顧客が本当に存在し想定している顧客の抱える課題が切実なのかを検証をし、その上で切実な課題を適切に解決できるソリューションを開発するというステップを経ないと、成功確率は上がらないと考えています。

その仮説検証をし、事業を開発して行くビジネスパーソンに最も必要な視点が、ハーバードビジネススクールのクリステンセン享受が提唱する「ジョブ理論」と考えています。ジョブ理論はかなり普遍的な理論で、実はビジネス以外のシーン、例えば日常生活での対人関係で悩んだ困ったときなどにも活用できます。

ジョブ理論とは?

“顧客(個人や企業)の生活にはさまざまな「用事」がしょっちゅう発生し、
彼らはとにかくそれを片づけなくてはならない。
顧客は用事を片づけなくてはならないことに気付くと、
その用事を片づけるために「雇える」製品やサービスがないものかと探し回る。”
引用元: 『イノベーションへの解』
上記のなかでいう「用事」をジョブと言っています。事業企画・事業開発担当者は、まずは、このユーザー(顧客)が抱えているジョブを捉え、それを適切に解決できるソリューションを開発しなければ、ニーズのある製品・サービスを提供することが出来ないという事を、意識しなければなりません。
「ジョブ」という言葉は、非常に抽象的なので、読者の皆さんには、まずは、ジョブの定義を以下のように理解頂けたらと思います。
ある特定の状況下で、
人・人々が、
片付けるべき用事、
望む進歩、改善したい事柄、
やりたい事・やらなければならない課題。

ある特定の状況下というのが、非常に重要です。
例えば、「横浜に住んでいる40歳男性、保育園の娘がいて、共働き、週末に近所の大型ショッピングモールで牛乳を2本以上買う事が多い」という情報は、マーケティングデータから得る事は可能でしょう。しかし、そのグループの中のAさんが牛乳を買う理由と、Bさんが牛乳を買う理由は、果たして同じなのか?Aさんは、自分で牛乳をたくさん飲むから買ったのかもしれませんし、Bさんは、娘に飲ませる為に買ったのかもしれません。それは、AさんとBさんの状況を見ていかないと、分からない事です。

一方、顧客に製品・サービスを提供する企業からすると、この「顧客がなぜ、そこで、その場面で牛乳を買ったか?」それを突き止め、それに合わせた牛乳という製品を製造したり、それに合わせた製品訴求をしないと、本当にニーズのある牛乳ビジネスは開発できません(もしかすると、Aさん・Bさんは牛乳じゃなくてもよかったかもしれません)。

ジョブ理論は、マーケティングデータでは明らかにならない、なぜ顧客はその製品を買うのか? その因果関係を明らかにし、そこから真に顧客が求める事を突き止め、それを元に事業・製品・サービスを開発しようとするアプローチであり、視点です。

自社が解決している顧客のジョブを正確に把握しているか?

読者の皆さんは、自社の製品・サービスが、顧客のどんなジョブ(課題)を解決しているか、把握し、社内で共有できていますか? 下の図は、ソリューション(製品、サービス)が解決しているジョブの例です。解決しているジョブ 

我々企業は、得てして自社のソリューション、例えば、製品であれば、軽い・丈夫・性能が良いなどのスペックが顧客にとっての価値だと提案する傾向があります。もちろん、顧客が気付かない価値を提案するという考えもありますが、顧客の関心毎は、ジョブ理論で言えば、自分のジョブを解決できるソリューションであるかどうか?、その一点に尽きます。

古典的なフレームワークであるマーケティングの4Pは、企業側の論理で作られたものです。一方で、4Cと呼ばれるフレームワークは、顧客側の論理で考えられたもので、その基準は、つまるところ、自らの課題を、自らの望む体験で解決できるかどうかでしか、ソリューションを見ていないという事です。

売り手の視点4P,顧客の視点4C,ジョブ理論

“企業が売っていると考えているものを顧客が買っている事は稀である“

引用元: 『創造する経営者-ピーター・F・ドラッカー』

外部CTOでは、セミナーで、ジョブ理論の講座をしていますが、企業の皆さんに「事業・製品・サービスが解決しているジョブは何でしょうか?」という問いについて一度考えてもらうようにしています。同じ企業に勤めている方々でも、意外と、様々な回答が出てきます。つまり、自分たちの事業が提供していると考える価値が同じ部署・企業内で違うのです。

是非、事業開発を担当する部署の皆さんで、このジョブ理論・ジョブの視点を身に着けて、「顧客のどのジョブを解決するのか?」という共通の問いをたて、自分達の開発するソリューションの成功確率をあげましょう。

ジョブ理論についての関連記事

第4回 ジョブとニーズの違い
第3回 顧客ジョブの定義を考える
第2回 ジョブ理論と他の事業開発手法の違い
第1回 ジョブ理論とは?