前回までで、ジョブ理論の位置づけを見てきました。とても、魅力的な理論じゃないか!と思われた方も多いかと思います。しかし、実際に現場で活用しようとなると、それが案外難しい事に気づきます。

 “用事理論(ジョブ理論)は、 文章では極めて魅力的に見える概念が、 

いざ実行しようとなると驚くほど困難になる“

引用元: イノベーションへの解 実践編

今回からは具体的に、顧客のジョブをどのように捉えるのか考えて行きたいと思います。

実は、顧客ジョブを定義する事自体は、それほど難しくはありません。後日お伝えしますが、定義したジョブが本当に切実なジョブなのか?つまり、顧客が身銭を切ってでも解決したい課題なのか?を見極めることの方が難しいです。つまりジョブも、切実なものから、そうでないものまで、様々にあるのです。さらに、切実なジョブを見つけたとしても、それを解決するためのソリューションを開発し、顧客に届けなければなりません。その際に、「ジョブを解決する際の顧客のこだわり」に見事に応えられなければ、そのソリューションは「顧客に雇ってもらえません」。

ジョブ定義文

いずれにせよ、まずは、ジョブの定義文を考えてみましょう。

顧客ジョブ定義文:○○は△△という状況で、□□を成し遂げたい
ジョブは基本的には、この文に収斂されていきます。以下は、外部CTO.comにご相談を頂くお客様のジョブ定義文の例です。
ジョブ定義文には対象顧客・顧客の状況・顧客の達成したい事を盛り込みます。
皆さんは、まずは、自社の顧客のジョブ定義文を考えてみる事をお奨めします。この場合、顧客といっても様々な顧客がいると思います。ジョブ理論では、顧客ジョブを考える際は、顧客の状況をかなり厳密に定義することを推奨しています。同じ会社の同じ人物でも、状況によって、達成したい事、つまりジョブは変わります。ほとんどが、同時にいくつものジョブを抱えているでしょう。その中で、自社がその人物のどのジョブを解決する存在なのか?を考える事は重要です。その為にも、状況をしっかり定義する事が必要になってきます。

ジョブではない事

実は、顧客のジョブそのものは、比較的、捉えやすいと思います。ただ、切実なジョブから、そんなに切実ではないジョブまで様々にあるので、そこを見極めるところがのが非常に難しい部分ではあります。その話をご説明する前に、そもそも、ジョブ理論で言う所の「ジョブではない事」を理解しましょう。

人生の指針・大テーマ・目標はジョブではない」

例えば、ジョブ理論のセミナーを開催した時、ご参加者に、「ご自身のジョブは?」という質問をすると、たまにあるのが、「幸せでいたい」「良い父親でありたい」「長生きしたい」という回答を頂く事があります。このこと自体はとても良い事だと思いますが、抽象度が高すぎて、それを解決するためのソリューションを具体的に考えにくいです。従って、「人生の指針・大テーマ・目標はジョブではない」と理解頂く事が必要です。
ここでジョブには階層があるという考え方について触れます。抽象度が高すぎると、ソリューションが考えにくいという事ですが、下図を見て頂くと分かる通り、「健康でいたい」というのは、誰もが持っているジョブですが、それに対してのソリューションは考えにくいでしょう。しかし、「健康でいたい」→「運動不足を解消したい」→「効果的な運動方法を知りたい」というジョブにまで具体化していけば、例えば、「生活習慣に合わせた効果的な運動方法」を提案するAIアプリの提供といったソリューションが考えられるようになります。
顧客がもっとも切実に解決したくて、自社が直接的にソリューション対応できるレベルになるまでジョブの粒度を最適化、具体化、または、抽象化していく。
逆に、ユーザーインタビューなどで、「何を食べればよいか手軽に知りたい」などのユーザーのジョブが出てきた際、そのジョブが切実なのかどうかは、抽象度を上げていくと、その人にとって、どれだけ重要なのかが見えてきます。↑の例で言えば、「食生活を改善したい」→「子供が生まれたばかりなので健康でいたい」、それであれば、その人にとって切実でしょう。
ジョブ定義文を書く場合には、適切な抽象度で検討する必要が有ります。適切な抽象度で設定できる力は、日常的にジョブについて考えるという訓練によって身につけられます。

同種のソリューションでないと解決できない事は、ジョブではなく、ソリューションへのニーズである

例えば、「忙しいけど、お腹がすいたので、手っ取り早く食事したい」はジョブですが、「ハンバーガーが食べたい」はジョブではなく、ハンバーガーに対してのニーズをいっています。クリステンセン教授は、「ジョブ理論」の中で、このように言っています。

「 350 ミリリットル の 使い捨て 容器 に はいっ た チョコレート味のミルク シェイクがほしい」は ジョブ では ない。これ を 片づけるために雇用 する有力候補は、すべて ミルク シェイクという製品 カテゴリのなかにあり、ニーズ または嗜好とは言えても、ジョブではない。

引用元: クレイトン・M・クリステンセン. ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム

ジョブ理論のセミナーの中で、最もでもよくある間違いが、ニーズの事をジョブと行ってしまう事です。ジョブとニーズは、言っている人にとっては、同じ意味で言っている場合もありますが、この2つについては分けて考えたほうが事業開発をするうえで、説得力のあるソリューションを企画する事が出来ると思います。

1ジョブ=1ソリューションではない

1つのジョブには様々なソリューションが存在する

例えば、休日に気分転換したいというジョブを解決するソリューションは、「家族と過ごす」「海水浴に行く」「ハイキングに行く」「ドライブする」「友人と食事に行く」など、様々あります。従って、例えば、レストランのオーナーからすると、休日に気分転換したいという顧客を取り込もうとしたとき、ライバルは、同業のレストランはもちろん、(極端な話ですが)海であり、山であり、車であるとも言えます。つまり、ジョブ理論の視点でいくと、これまでライバルと思っていなかった企業がライバルに浮かび上がってくるので、競争の景色が一変します。

休日に気分転換したいというジョブに対してのソリューションは、ドライブに行く、食事に行く、山に行くなどさまざまである

一つのソリューションで解決できるジョブは沢山ある

加熱式たばこを雇う人が解決しようとしているジョブは何でしょうか?
・節約したい(葉巻式の紙たばこより、コストがかからない)
・健康に気を付けたい(紙巻たばこと違い、有害物質のタールは出ない)

煙草を吸う人との喫煙所でのコミュニケーションは継続したい・子供の受動喫煙を心配する妻からのプレッシャーと自分の欲求の間に折り合いをつけたい

様々にあると思います。ジョブ理論の視点を身に着けると、自社の既存製品・既存のリソースが解決できる新たなジョブが見つかります。つまり、シーズから新規事業企画のタネが得られます。

例えば、ビールというソリューションが解決しているジョブは、「気分転換」「同僚とのコミュニケーションの補助」「商談接待の場のうるおい」「食事を楽しむ」「のどを潤す」「何もかも忘れる」など様々です。

であれば、ビールメーカーは、味や品質などだけを訴求するのではなく、同僚とのコミュニケーションを促進するようなサービスを付加する等の企画タネが出てくるでしょう。

ビールか解決するジョブは、実に多様で、様々な場面でビールが雇われている

ジョブとニーズの違いは、次回にお話したいと思います。

ジョブとニーズの違い

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第3回 顧客ジョブの定義を考える
第2回 ジョブ理論と他の事業開発手法の違い
第1回 ジョブ理論とは?